弁護士コラム
第47回
『自衛隊員(自衛官)のための親の同意と退職代行』について
公開日:2024年11月27日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第47回は『自衛隊員(自衛官)のための親の同意と退職代行』についてコラムにします。
自衛官(自衛隊員)の方が退職するにあたって、親の同意が必要とされる場合があります。
では、内容に入ります。
目次
1.親の同意の法的根拠
親の同意については、通達に根拠があります。
例えば、隊員の退職、休職及び復職手続等について(通達)
昭和 43年3月4日海幕人第 1095号によれば、部隊等の長は退職を申し出た隊員が若年、特に未成年者である場合は、当該隊員の両親又は後見人等と連絡を密にし、その取扱いを誤らないようにしなければならないと定められています。同号によれば、退職者である当該隊員と連絡を密にし、取扱いを誤らないようにするために、親の同意書を退職者から提出するようになったと考えられます。
親の同意が得られない場合でも退職できますし、もし、親の同意がないことで退職の承認がされない場合には、裁量権の逸脱濫用にあたり自衛隊法第40条に反し違法になります。
したがって、親の同意は、法律上の絶対要件ではありません。
・参考条文
行政事件法第30条
(裁量処分の取消し)
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消す。
自衛隊法第40条
(退職の承認)
第31条
第1項の規定により隊員の退職について権限を有する者は、隊員が退職することを申し出た場合において、これを承認することが自衛隊の任務の遂行に著しい支障を及ぼすと認めるときは、その退職について政令で定める特別の事由がある場合を除いては、任用期間を定めて任用されている陸士長等、海士長等又は空士長等にあつてはその任用期間内において必要な期間、その他の隊員にあつては自衛隊の任務を遂行するため最少限度必要とされる期間その退職を「承認」しないことができる。
ここまでをまとめますと、親の同意がない場合でも、法律上退職ができます。
もっとも、親の同意が必要とされている理由は、退職後、隊員の親御さんからの退職についてのクレームを防止することにありますので、後から揉めたくない自衛隊としては「指導」と称し、親の同意書をとるように動いてきます。
例えば「指導」とは、自衛隊法第40条が承認権者に広い裁量権を与えているため、自衛隊法第40条を根拠として「指導」することは法律上許されます。しかしながら「指導」については行政手続法第32条によれば、❶退職者の同意が必要であって、仮に、同意しない場合でも、❷不利益な取扱をしてはいけませんので、同意を要求された場合でも拒否できますし、同意をしなかったことで不利益に取り扱ってはいけません。
なお、自衛隊の指導自体も行政行為にあたるため、行政指導と言え、行政手続法が適用されます。
・参考条文
行政手続法第32条
(行政指導の一般原則)
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の❶「任意」の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、❷「不利益な取扱い」をしてはならない。
話を戻しまして、退職予定者の隊員の親の同意は退職の絶対的な要件にはなっていませんので、同意が得られない隊員(自衛官)は拒否すれば問題ありません。親からの退職の同意が得らないため、退職できない隊員(自衛官)の方は私までご相談ください。力になります。
2.親の同意が必要な年齢の範囲
最後に補足説明として、親の同意が必要な隊員の年齢は階級に関係なく、若年者、すなわち15歳から34歳の間になります。若年者とは法律上の定義がある訳ではなく、政府が出している統計や白書で用いられている年齢層になります。
実際のところ、25歳前後の隊員の方までを対象にしているように思えますが、29歳の方でも要求されたケースもあるので、明確なものがある訳ではないと私は考えています。そもそも親の同意の要件も絶対的な要件ではなく、同意を要求される年齢も法律的に定義されている訳ではありません。
3.まとめ
過去、私の方で親の同意が得られないケースが多数ありましたが、最短で退職が出来ています。一般的に、入隊時には親の同意書を提出しているので、退職時にも親の同意書を必要とするのが理由として使われますが、隊員によっては入隊時の同意書は、広報官がサインしているケースもありますので、退職時に同意書が提出できない理由は様々です。
したがって、過去、同意書を提出できない理由を私の方から具体的に伝えることでき、スムーズに退職させています。親の同意が得られない自衛官(自衛隊員)の方でも退職できますので、悩む前に私までご相談ください。
・関連コラム
第11回『自衛官の退職代行及び脱柵』について
第20回『自衛官の懲戒処分待ちの退職代行』について
第21回『自衛官の懲戒処分待ちの退職代行その2』について
第26回 『自衛官(陸士長、1等陸士、2等陸士)の退職代行【自衛隊編】』について
第33回『自衛官(自衛隊員)の退職代行【階級3曹】』について
第39回『幹部自衛官の退職代行』について
を、読んでいただきましたら、自衛官の退職代行について理解が進むと思います。お時間がございましたら、ご拝読ください。
・関連ホームページ
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。