弁護士コラム

第49回

『兼務役員(使用人兼務役員)の退職代行(退任代行)』について

公開日:2024年12月2日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第49回は『兼務役員(使用人兼務役員)の退職代行(退任代行)についてコラムにします。
取締役の退職代行については、第23回でもコラムにしています。お時間がありましたら、ご拝読ください。

最近では、取締役、執行役員、理事、社員の方で、従業員の身分がある使用人兼務役員の方から退職代行の依頼を受けることがあります。

兼務役員(使用人兼務役員)の方は役員(取締役、理事、執行役員、社員)の身分(委任契約)と従業員の身分(雇用契約)をもっていますので、退職代行(退任代行)をするにあたり、委任契約については役員の退任代行(辞任代行)、雇用契約については退職代行の両方を行う必要があります。

使用人兼務役員として会社や医療法人で取締役、執行役員、理事、社員になっている方は、もともと従業員として雇用されているものの、会社法上の取締役等の穴埋めや、オーナーや社長から頼まれて引き受けるケースがほとんどです。オーナーや社長に退職を言いづらい、または、退職できない方は、私まで、遠慮なくご相談ください。

目次

1.使用人兼務役員の法的性質について

使用人兼務役員の法的性質について簡単に解説をします。

まず、兼務役員の役員の身分については、会社と委任契約(民法第)を結んでいますので、退職するにあたり、委任契約(民法第643条)の解除が必要となります。また、役員の地位を解除したとしても、雇用契約(民法第623条)としての従業員の地位が残っているので、退職の申し出が委任契約解除の申し出とは別に必要になります。

次に、代表取締役、専務取締役、常務取締役は、会社の代表権などを有しているため、使用人兼務役員にはなれません。また、監査役についても、会社法第335条にて、使用人兼任が禁止されていますので、兼務役員にはなれません。

2.役員に対する退任代行及び雇用契約の従業員の地位に対する退職代行について

役員と会社の委任契約を解除するにあたっては、民法651条によれば「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」となっています。したがって、委任契約としての役員の地位については、解除を申し出たその時を解除とする即日退職(解除)になります。

また、雇用契約については、民法第627条第1項により、退職の申し出をした時から2週間経過後が退職日となります。兼務役員については、従業員としての地位があることから、有給休暇消化することも時間外労働に対する残業代、深夜残業代等も会社として対応しなければなりません。したがって、兼務役員の退職代行にあたっては、退職代行時に有給休暇消化や未払い残業代についても交渉するケースも多いです。

ここまでをまとめますと、弁護士(私)から所属会社に対して、退任代行と退職代行を同時にまとめて行います。委任契約については即日解除、雇用契約については14日経過後が退職日になります。したがって、私が作る受任通知書には、解除と退職の両方が含まれます。退職代行費用については、役員の退職代行の費用となりますので、合計55,000円で追加費用はありません。

3.損害賠償請求及び損害賠償対応プランについて

もっとも、役員(取締役、理事、社員、実行役員)の方は、会社との関係で善良な管理者の注意義務を負います(善管注意義務。 会社法330条、民法644条)。退職者(役員)は、会社の①「不利な時期」に退職(辞任)した場合には、②やむを得ない理由がなければ、損害賠償を負担する可能性あります。

・参考条文

民法651条第2項によれば、民法651条第1項の規定により委任の解除(退職)をした者は、次に掲げる場合には、相手方(会社)の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

①委任契約が、信頼関係を前提とした契約であることから、①不利な時期とは、事務処理自体との関連において相手方に不利な時期をいいます(東京高裁昭和63年5月31日判決)。 受任者が解除する場合では、委任者がその委任事務を自ら処理したり他人に処理させたりすることができないような時期に解除する場合が該当します。

②やむを得ない理由とは、委任契約が、信頼関係を前提とした契約であることから、会社側が信頼関係を毀損する行為(不誠実な行為)をしたり、退職者に病気などがあり、事務処理ができない場合があたると考えます。 したがって、弁護士としては、兼務役員(取締役、社員、理事)が会社を退職するにあたっては、①②を十分に検討して、会社から損害賠償を請求されないように弁護士から法的アドバイスを受けてください。お困りの方は、私まで遠慮なくご相談ください。

・損害賠償対応プラン

兼務役員の基本プランは、55,000円になります。

基本プランの委任の範囲としては、
❶解除及び退職の対応
❷訴訟外での会社から退職に対して請求された損害賠償の交渉
が含まれますが、仮に、裁判された場合も対応できるプランとして、損害賠償対応プランを作っています。
❸ ❷に加えて訴訟(簡裁、地裁など)の対応を行います。
❸の対応としては、追加費用25,000円となり、退職代行実行時までのお申し込みが❸の対象となります。
詳しくは、私までお問い合わせください。仮に、裁判上に、損害賠償請求として訴えられた場合でも、合計80,000円で私が対応します(交通費等の実費は別途かかります)。

4.対応事例

⑴取締役を兼務しているため、解除通知して、同時に、退職代行をしました。兼務役員の場合には、雇用保険にも加入しているので、離職票の請求を私から会社に対して行いました。

・対応事例からわかること
兼務役員の退職にあたっては、事前に雇用保険に加入しているか確認する必要があります。
また、本件事案にあたっては、未払い残業代の請求を検討しましたが、結局のところ請求はしませんでした。

⑵取締役を兼務したことと、社宅の保証人になっていたので、取締役の退職代行時に、保証人を変更する旨の交渉も行いました。

・対応事例からわかること
取締役が従業員の社宅の保証人になっているケースもあるので、退職代行時に交渉するケースもあります。

⑶社会福祉法人の理事を兼務しているケースや医療法人の理事を兼務しているケースでは、最低限の人員基準上の配置する人員に含まれているケースもあり、損害賠償について、最大限注意を払う必要があります。

・対応事例からわかること
①不利な時期と②やむを得ない理由の検討が十分必要であるケースとなります。弁護士としては、他の兼務役員と比べて、より事前に依頼者からヒアリングが必要なケースと言えます。

5.まとめ

兼務役員にあたるかどうかは、事前に契約書の有無、給与明細上の基本給と役員報酬が分かれているか、雇用保険に加入しているか、使用人兼務役員の勤務実態がどのようになっているかなどを私の方でヒアリングし、使用人兼務役員にあたるか否か判断した上で、最適な退職代行をする必要がありますので、使用人兼務役員の方で退職についてお困りの方は遠慮なく私までご相談ください。

・関連コラム

第23回『取締役の退職代行(辞任代行)』について

第35回『即日退職と退職代行』について

・参考コラム

第19回『業務委託の退職代行』について

第22回『業務委託の退職代行(解除代行)』について

第31回『業務委託契約の退職代行』について
業務委託契約についても、使用人兼務役員と一緒で、委任契約の解除が問題となりますので、お時間がありましたら、ご拝読ください。

・参考条文

民法第651条
第1項

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

第2項

前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。
ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
⑴号 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

民法第627条
第1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。