
弁護士コラム
第80回
『退職時の入社祝金(支度金)の返還』について
公開日:2025年2月14日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをメッセージと共にコラムにします。
コラム第80回は『退職時の入社祝金(支度金)の返還』についてコラムにします。
5分程度で読める内容になっています。
入社にあたって資格取得費用を会社が依頼者に支払いしているケースは多くありますが、稀に、入社にあたって、入社祝金(支度金)や入社一時金を退職時に返還するように会社から求められているケースもあります。

目次
1.入社一時金について
例えば、入社時に、入社一時金や祝い金として、50万円を支給され、それにあたり、1年以内に退職した場合には、会社に対して全額支払いする誓約書を会社と退職者との間で結んでいる事案があります。
まず、そもそも入社祝金をもらうにあたって、返済について一筆も書いていないのに、退職時に、会社から本人に請求するのは難しいです。前提として、このケースでは、退職者は、会社から入社祝金を請求されても支払う必要はありません。
次に、今回の例題になりますが、仮に、誓約書で、1年以内の退職には、全額支払いさせる約束をさせていたとしても、労働基準法第16条の賠償予定の禁止の趣旨に反し誓約書による支払い約束は、違法になると考えます。
2.裁判例の紹介
日本ポラロイド事件判決
入社一時金の返還請求について争われた「日本ポラロイド事件(東京地判平成15.3.31)」では、入社時に200万円の入社一時金を支給するものの、1年以内に自発的に退職した場合は、当該一時金を返還させるという条件付きでの支給となっていました。
入社半年が経過しないうちに自発的退職をする者が発生したため、会社が返還を求めたところ、退職者がこれに応じなかったことから、会社が提訴するに至りました。本判決では、これらの規定(労基法5条、16条)の趣旨は、労働者の足止めや身分的従属を回避して、労働者の不当な人身拘束を防止しようとするところにあると解される。
したがって、暴行、脅迫、監禁といった物理的手段のほか、労働者に労務提供に先行して経済的給付を与え、一定期間労働しない場合は当該給付を返還する等の約定を締結し、一定期間の労働関係の下に拘束するという、いわゆる経済的足止め策も、その経済的給付の性質、態様、当該給付の返還を定める約定の内容に照らし、それが当該労働者の意思に反して労働を強制することになるような不当な拘束手段であるといえるときは、労働基準法5条、16条に反し、当該給付の返還を求める約定は、同法13条、民法90条により無効であるというのが相当である、としています。
・参考条文
労働基準法第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準法第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
民法第90条
公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
3.まとめ
入社一時金を支払いしているケースで、退職代行した際に、会社側が、最終給与と相殺しているケースがあります。真摯な同意がなされない限り、その相殺は労基法第24条の賃金全額払いの原則に違反しています。
相殺されたケースでは、労働基準法第23条に基づき所轄の労働基準監督署に申告するケースもあります。お困りの際には、遠慮なく私までご相談ください。
・関連コラム
第71回『労働基準監督署への申告及び告訴』について
・参考コラム
第12回『退職代行と損害賠償請求』について
第25回『車両(トラック)や社用車の事故と退職代行』について
第27回『資格取得費用(研修費用)の返還と退職代行』について
第28回『資格取得費用(研修費用)にあたって金銭消費貸借契約書を結んでいるケース』について
第32回『借入金と退職代行』について
第34回『前借りと退職代行』について
第35回『即日退職と退職代行』について
第36回『30日前、60日前、2ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前申告と退職代行』について
をご参照して頂ければ、より理解がすすめますので、お時間ありましたら、読んでみてください。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者

弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。