弁護士コラム

第25回

『車両(トラック)や社用車の事故と退職代行』について

公開日:2024年9月27日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第25回は、『車両(トラック)や社用車の事故と退職代行』について書きたいと思います。
業務中に車両(トラック)や社有車の事故を起こした後、退職代行にて退職するケースが多いためコラムにしました。
10分程度で読める内容となっております。

運送業界でトラックに乗っている方や営業で社有車に乗っている方などで、車両事故を起こした方からのご依頼やご相談が増えています。そこで、今回は、ポイントを簡潔に解説します。
では、内容に入ります。

目次

1.退職者の負担が損害額の5%から25%(30%)の根拠について

退職者が会社に損害を与えた場合とは、勤務中に会社車両を運転中、物損事故を起こして会社車両を破損したというケースが考えられます。この場合、退職者は、故意・過失によって会社の財産を害しているため、会社に対してその損害を賠償する責任を負うことになります(民法第709条)。

しかしながら、会社は、従業員によって利益を上げているので、その損失も一定程度、負担しないとなりません(報償責任の原則)。
そこで、退職者は損害全額を会社に賠償する必要はないと考えられます。

すなわち、最高裁第一小法廷判決昭和51年7月8日を参考にすれば、
①その事業の性格、規模、施設の状況、
②退職者の業務の内容、労働条件、勤務態度、
③加害行為の態様、
④加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度
⑤その他諸般の事情に照らし、

損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、一定程度の負担で済みます。

なお、この事案における従業員の不注意は、前を走行する先行車両との車間距離を十分に保持せず、前方を注視していなかったために、急停止した先行車両に追突した、という内容でした。裁判所は、この事案において、損害額の25%分を従業員に請求(求償)できると判断しました。この25%(4分の1)の判断をした判例は運送業界では有名な判例であるもののこの判例を生かしきれていない会社さんも多いです。 その他、地裁判断ですが、損害の5%を負担させる裁判例などがあります。

なお、重過失があった場合には、上記の判断過程とは異なる可能性もありますので、私までご相談ください。

2.無事故手当(安全手当)が支給されている場合について

無事故手当(安全手当)が支給されてある場合には、一定の免責金額を定めて、毎月の無事故手当(安全手当)をカットする方法が定められています。 また、会社が任意保険を使って直した場合でも、免責金額を定めて無事故手当(安全手当)を一定程度カットする場合もあります。 その際、就業規則に無事故手当(安全手当)の取り扱いについて記載されているはずです。

無事故手当(安全手当)を一定期間について支給をカットするのは、法的に問題はありません。 もっとも、全ての損害額まで無事故手当(安全手当)をカットするのは、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)に反し、違法かつ無効になります。

労働基準法第24条

(賃金の支払)
第二十四条賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
②賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

3.損害額を退職者の同意なく給料から一方的に控除した場合について

損害額を毎月の給与から同意なく控除した場合については、賃金全額払いの原則に反し、違法かつ無効になります。
そのような処理をされたケースでは、労働基準法第23条に基づき、所轄の労働基準監督に申告するケースが多いです。

労働基準法第23条

(金品の返還)
使用者は、労働者の退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
②前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

4.退職代行の依頼にあたって

退職代行の依頼にあたっては、事前に給与明細で、無事故手当(安全手当)が支給されているか、または、任意保険を使って車両を直しているかを事前にチェックしてください。

その上で、最適なアドバイスをしますので、事故を起こした方で、退職代行をご希望の方は、私までご相談ください。

力になります。

5.まとめ

1 通常の過失(軽過失)であれば、全額負担しません。
2 負担する額は、損害額の5%から25%(30%)の範囲になります。
3 無事故手当がついている場合は、5%から25%(30%)の範囲になること限りません。
4 任意保険を使った場合には解決方法が異なります。
5 事故を起こしたことは、退職には関係がありませんので、事故を起こした場合でも退職できます。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。