弁護士コラム
第28回
『資格取得費用(研修費用)にあたって金銭消費貸借契約書を結んでいるケース』について
公開日:2024年10月3日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第28回は、弁護士による退職代行『資格取得費用(研修費用)にあたって金銭消費貸借契約書を結んでいるケース』についてコラムにします。退職時に会社から資格取得費用(研修費用)の返還をされた場合にはご相談ください。
10分程度で読める内容となっております。最後までご拝読頂けると幸いでございます。
目次
1.資格取得費用(研修費用)について、金銭消費貸借契約ではなく、事前に誓約書にサインしているケース
第27回は、3年以内に退職した場合には、研修費用や資格取得費用を全額返還するように誓約書にサインしているケースについてコラムにしました。このケースは、労働基準法第16条に違反し、無効になることはあまり争いがありません。
参考条文(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
2.資格取得費用(研修費用)について、金銭消費貸借契約を締結しているケース
今回は、資格取得費用や研修費用を貸付処理した金銭消費貸借契約を結んでいるケースについて解説していきます。
退職代行のご相談にあたっては、資格取得費用や研修費用を貸付処理した金銭消費貸借契約を結んでいるケースはとても多いです。
例えば、留学費用、運送会社での大型免許取得費用、中型取得費用、準中型取得費用、看護師の資格習得費用、自動車学校の教習指導員の主格取得費用、ソフト開発の研修費用、インプラントや美容整形等の研修費用などが多くの場合で問題となります。
では、内容に入ります。
まず、業務命令にあたるなど、業務性を有している場合には、会社が研修費用を負担するべきであって、その金銭消費貸借契約書は、実質的に労働基準法第16条に反し、無効となり返還する必要はありません。
例えば、親会社が主催するセミナー受講料等の返還を求めたが労働基準法第16条違反で無効となった事例があります(長崎地判令和3年2月26日)。また、証券会社が、留学費用約3000万円の返還を求めた裁判で証券会社の請求が認容されたことが話題になりましたが、これは社内公募型の留学制度の実態が業務性を有しないと判断された事例があります(東京地判令和3年2月10日)。
次に、業務性があった場合でも、例外的に、研修等により、①国家資格など退職後も利用できる個人的な利益を従業員が享受できる場合に②返還が免除されるまでの期間や返還を求める金額なども考慮して、当該費用の返還が認められる場合があります。
例えば、バスの乗務員として必要な大型自動車第二種免許の未取得者を対象に、教習費用や学科試験費用に対応する額を貸し付け、教習所に通うための一定期間、有期雇用契約を締結して金員を支払い、免許を取得して正社員として採用され一定期間継続して勤務した場合(5年以上勤務)には貸付金の返還債務を免除する制度(養成制度)について、労働基準法第16条には違反しないと判断しています(さいたま地裁令和5年3月1日)。
同様に、(教習所の)教員指導員資格取得後、3年以内に退職した従業員へ立替費用の返還請求が労働基準法第16条には、違反しないと判断しています(東京地裁令和5年10月26日)。
一方で、看護学校の学費等について6年間で設定していた事案で、金銭消費貸借契約の形を取ったとしても、実質的に労働基準法第16条の損害賠償の予定に該当する場合は法違反になるとの判断があります。この事案では、労働基準法第14条の有期契約について3年を超える期間を定めてはいけないというところに着目し6年はその倍であるとこと、勤続年数に応じた減額措置がないこと、返済額が基本給の約10倍の高額であることなどを指摘して無効と判断しています(広島高裁平成29年9月26日)。
3.まとめ
資格取得費用や研修費用にあたって金銭消費貸借契約を結んでいるケースで退職するにあたっては、資格取得や研修について、①業務性があるかどうか、②業務性があった場合でも、退職後、個人の利益になっているか、③返済期間(概ね5年以内なのか)④勤続年数に応じた減額措置(償還期間の有無)、⑤返済額等から労働基準法第16条に違反するかどうかを判断します。
金銭消費貸借契約書を結んでいるものの、返還する必要があるかどうかについて、悩んでいる方は、私までご相談ください。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。