弁護士コラム
第32回
『借入金と退職代行』について
公開日:2024年10月17日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第32回は、『借入金と退職代行』についてコラムにします。
「退職したい」でも、会社から借入したお金があるため、なかなか退職できない方や退職し難い方は私までご相談ください。
では、内容に入ります。
目次
1.借入金分割対応している弁護士事務所は少ない
退職代行を行なっている弁護士はかなり増えましたが、それでも借入金の対応や分割払いの交渉などは受けていない弁護士事務所も多いです。そこで、今回は、コラム記事の情報が少ない借入金がある方の退職代行について、解説していきます。10分程度で読める内容となっています。最後まで宜しくお願いします。
2.借入金があっても退職できます
借入金があっても退職にはまったく影響はありません。仮に、退職にあたっては、民法第627条第1項により、退職の申し出をしてから14日経過後に退職となります。その一方で、会社からお金は借りるのは、民法587条で定められています。
すなわち、退職の法律と借入の法律関係は、まったく別問題なので、退職には影響はありませんし、退職時に、借入金を一括で返済する契約を交わしていたとしても、仮に、借入金の支払いが出来なかった場合でも、退職には影響はありません。したがって、仮に一括の支払いができなくとも退職は必ずできます。
3.退職時の一括返済については、無効になる可能性が高い
仮に、借入金の一括返済がなされない場合に、退職ができないことを強要することは、労働基準法第5条の「強制労働の禁止」にあたり、「一括返済」については、「無効」となります。強制労働の禁止については、重い罰則(「1年以上10年以下の懲役」または「20万円以上300万円以下の罰金)が定められております。
参考までに、東京地裁平成26年8月14日判決によれば、労基法5条及び16条については、暴行、脅迫、監禁といった物理的手段によるものだけでなく、労働者に労務提供に先立って経済的給付を与え、一定期間労働しない場合には上記給付を返還するという契約を締結することにより、労働者を一定期間労働関係の下に拘束するといういわゆる経済的足止め策も、当該経済的給付の性質、態様、当該給付の返還を求める約定の性質に照らし、それが労働者の自由意思に反して労働を強制するような不当な拘束手段であるといえるときは、労基法5条などに反し、無効であると一般論を打ち出しております。
4.給料と借入金の相殺は違法
次に、借入金があった場合に、退職時の給料と借入金との相殺するのは、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条第1項)にあたり、違法かつ無効となります。したがって、仮に、借入をしていた場合でも、会社としては、給料の支払いをしなければなりません。支払いがなされない場合には、回収方法として、労働基準監督署に申告手続きをすることがほとんどです。給料未払い回収についてのコラムは第15回をご参照ください。
5.借入金の分割交渉について
なお、退職代行にあたっては、同時に、借入金の分割交渉についても依頼を受けるケースがほとんどです。毎月の支払いできる範囲で分割交渉を行います。また、支払い時期などについても合わせて交渉を行います。
6.まとめ
借入金がある方で、退職が難しいと考えている方や難しい方は、私までご相談ください。
参考条文
(強制労働の禁止)
労働基準法第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
(賃金全額払いの原則)
労働基準法第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
(消費貸借契約)
民法587条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。