弁護士コラム

第34回

『前借りと退職代行』について

公開日:2024年10月24日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から、「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第34回は、『前借りと退職代行』についてコラムにします。5分程度で最後まで読めます。
退職したいけども、会社から前借りしたお金がある方で退職したい方は私までご相談ください。

では、内容に入ります。

目次

1.入社時の前借りについて

入社にあたって支度金や社宅の費用などを会社から前借りとして支給を受けているケースが多くあります。前借りを採用している業種は、建設業、SES、運送業、原発関係の業種などが多いように感じます。

また、「前借り」にあたっては、借用書や念書を書いているケースもあり、控えを退職者に渡していないことも多いので、書いた内容がわからないケースも多いです。そもそも「前借り」を採用している会社は、退職時の「足枷(あしかせ)」を目的としているケースが多いので、当然、ご自身で「退職の意思を伝えた」としても、「退職」をすんなり受理されることはありません。

2.退職について

前借りがあっても退職には関係はなく、民法627条1項によれば、14日経過後に退職ができますので、退職がすんなり受理されない場合には、遠慮なく私までご相談ください。なお、建設業、SES、運送業、原発関係の業種については、期間の定めのない雇用契約がほとんどですので、今回は期間の定めのある雇用契約(契約社員)の退職についての解説は除きます。

3.最終給料から前借りを控除された場合について

次に、前借りの額は20万円から50万円程度で、1ヶ月分の給料相当額を目安としているようです。もっとも、前借りした金額を退職時に最終給料から一括で控除することは労働基準法第24条1項の賃金全額払いの原則に違反し、無効となります。仮に、同意なしに、控除された場合には、所轄の労働基準法監督署に申告することをお勧めします。

4.監督署への申告について

今回は少し脱線しまして「給料未払い」のケースに労働基準監督署に申告する方法について簡単に紹介します。「申告」の根拠は、労働基準法第23条第1項になります。第23条第1項によれば、「使用者」は、労働者の①「退職」の場合において、権利者の②「請求」があつた場合においては、③「七日」以内に④「賃金」を⑤「支払い」しなければならないとなっています。

そこで、私が行う退職代行(①)の際には、受任通知書上で、給料未払いに対して、7日以内(③)に、給料(④)を支払う(⑤)ように請求(②)します。①から⑤の要件を満たした書面を出した上で、それでも会社が給料未払いにした場合には、監督署は、退職者からの申告に基づき、指導、是正を行います。指導、是正の際には、監督署が会社に対して来署依頼をし、応じない場合には、直接、監督官が会社に訪問することもあります。

5.まとめ

入社時の前借りがある場合には、弁護士の退職代行を検討ください。
前借りを一括支払いできない場合には、分割交渉も行っていますので、お悩みの際には、私までご相談ください。

参考条文

労働基準法第23条

(金品の返還)
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

労働基準法第24条1項

(賃金の支払)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

民法第627条第1項

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。