弁護士コラム

第45回

『引継ぎ放棄と退職代行』について

公開日:2024年11月22日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第45回は『引継ぎ放棄と退職代行についてコラムにします。

「退職代行と損害賠償」の一般的なコラムは第12回で書いていますので、合わせて読んでいただければ、より理解が深まると思います。第45回コラムについては、5分程度で読める内容になっています。

目次

1.退職代行とは

退職代行とは、自分自身で退職手続きをしないで退職の代行または退職の代理を他の誰かに依頼して退職手続きするサービスです。

2.引き継ぎについて

退職代行を利用した場合には、退職通知した段階から出勤しないことが一般的ですが、退職者には自らが担当していた会社の業務の遂行に支障が生じることのないよう適切な引継ぎ(それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供など)を行うべき義務(引継ぎ義務)があると言えます。

仮に、退職者が引き継ぎ義務を放棄した場合には民法第415条1項により、退職者は債務不履行責任に基づく損害賠償を受ける可能性があります。

3.よくある引き継ぎについて

例えば、突然の退職にあたって、退職者しかわからない業務やパスワードなどの情報を提供を放棄した場合や成果物の引き渡しを放棄した場合、業務放棄したことで、介護事業、児童発達支援・放課後等デイサービス事業などにあたっての人員要件を満たすことができなくなる場合が考えられます。

したがって、退職者としては「事前」に最低限の情報や成果物がどこにあるかなどの情報を文章でまとめておき、引き継ぎ義務違反(引き継ぎ放棄)がないようにする必要があります。なお、情報を伝える方法については、職場に出勤する必要はなく、書面化し、メールまたは郵送で送れば引き継ぎ義務は十分であると考えられます。

4.人員基準について

次に、介護事業、児童発達支援・放課後等デイサービス事業などにあたっての管理者等の人員要件については、出勤しなくなる退職代行とは相性が悪く、どうしても引き継ぎ義務違反の問題が生じます。人員要件の場合には、法律上の要件であって、報酬の加算や減算や請求自体ができなくなりますので、会社に生じる「損害」自体が明確と言えます。

したがって、介護事業、児童発達支援・放課後等デイサービス事業などにあたっての管理者が退職代行を使って退職される場合には、弁護士に損害賠償の可能性について事前に相談してください。迷った場合には、遠慮なく私までご相談ください。

5.退職者の帰責事由の検討について

その一方で、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして「債務者の責めに帰することができない事由」によるものであるとき(帰責事由がないこと)は、債務不履行による損害賠償の「請求」は認められません。

したがって、弁護士としては退職代行を実行する際には、事前に依頼者から「債務者の責めに帰することができない事由」があるのかないのかについて慎重にヒアリングする必要があります。

例えば、会社側に加重労働がないか、パワハラがないか、労働環境に問題はなかったのか、退職理由は正当であるか、有給消化できるかなど詳細に検討する必要があります。かかる事情がある場合には、「債務者の責めに帰することができない事由」にあたりますので、会社側は損害賠償請求することができません。

6.損害賠償請求の成否について

残念ながら、退職者に「やむを得ない事由」が認められないときは、会社側は損害賠償請求ができます。しかしながら、そもそも「損害」がどの範囲が認めれるかは争いがあります。先程の事案で述べたように人員要件の「管理者」が退職した場合で、事業所が国に対して請求する報酬が減算された場合には減額された額そのものが損害と言えますが、民法627条第1項からあくまでも14日経過する日数分の損害(さらに営業日数に縮減されます)になると考えます。

例えば、1日あたり8000円の減算になった場合には、8,000円×10日(営業日)=80,000円が「損害」となります。

次に、引き継ぎ義務違反と損害が発生したとしても、引き継ぎ義務違反と損害との間には相当因果関係が必要となります。その上で経営者には代替人員を確保する義務もあると考えられるため、その義務を果たしていない場合や、その10日間(営業日)について有給消化していた場合には引き継ぎ義務違反と損害との間の相当因果関係が認められません。

よって、相当因果関係が認められない場合には、会社は退職者に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできません。最後の6は難しい話になりますので、別コラムで解説したいと思います。

7.まとめ

創業当時から、退職代行の際における損害賠償について積極的に対応しておりますので、退職にあたっての引き継ぎについて悩んだ場合には私まで相談ください。過去の退職代行から損害賠償請求を受けた事案やその経験などから具体的なアドバイスができます。

・参考条文

(債務不履行による損害賠償)
民法第415条第1項

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた「損害」の賠償を「請求」することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして「債務者の責めに帰することができない事由」によるものであるときは、この限りでない。

民法第627条第1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

・関連コラム

第12回『退職代行と損害賠償請求』について
こちらを合わせて読んで頂けると退職代行の際に、引き継ぎが必要かなど、理解が進むと思います。
お時間ございましたら、ご拝読ください。


第44回『退職代行における弁護士人気おすすめランキング』について
退職代行会社は、退職時に損害賠償請求された場合には、一切対応ができません。退職代行は、弁護士に依頼しましょう。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。