弁護士コラム
第56回
『競業避止義務と弁護士による退職代行』について
公開日:2024年12月18日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第56回は『競業避止義務と弁護士による退職代行』について書きたいと思います。
競業避止に関しては、弁護士による退職代行の際に1番ご質問が多い事項になりますので、今回、噛み砕いた上でコラム形式でもまとめます。近々、youtubeでも解説していく予定です。
目次
1.競業避止義務について
競業避止とは、一定期間、同業他社に行かないことを言い、競業避止義務とは、一定期間、同業他社に行かない義務を負うことを言います。競業避止義務を働く側に負わせる趣旨は、自社のノウハウが不当に同業他社に流失することを防止することにあります。したがって、そもそも保護すべきノウハウ等がなければ、働く側に競業避止義務を負わせること自体ができません。
次に、一定期間とは、入社して、就業期間中については、雇用契約に付随する信義則上の義務として、厳格に競業避止義務を課す傾向にあります。また、入社時に、競業避止義務に関する誓約書や同意書を書いているケースが多くあります。
しかしながら、入社時に書いた競業避止義務に関する誓約書や同意書は退職日までしか効力がありません。退職後に退職者に競業避止義務を負わせるためには、改めて退職時に競業避止義務に関する誓約書や同意書を作成させる必要があります。
もっとも、就業規則で入社から退職後に関して競業避止義務を課すことをできますので、誓約書や同意書がない場合でも、就業規則で同業他社に行かない競業避止義務を退職者に負わせることもできます。
私の方で退職代行した際には、退職にあたっての競業避止義務に関する誓約書や同意書の作成を拒否します。仮に、拒否しても、作成はあくまでも退職者の自由意思(任意)ですので、拒否することは法律上問題ございません。
2.競業避止義務の有効性について
次に、競業避止義務に関する誓約書や同意書にサインしたケースでも、退職者には憲法第22条第1項にて、職業選択の自由があることから、競業避止義務は必要かつ相当な範囲で適用されますので、合理的な範囲を超えた競業避止義務を課したこと自体が無効になるケースもあります。無効になるかは主に❶❷❸❹から判断します。
❶会社にとって、競業避止義務を課す利益がどの程度あるか
❷退職者にとって、競業避止義務を課される不利益がどの程度あるか(退職者の地位)
❸制限される地域、期間
❹代償措置が取られているか
まず、❶は会社にとって、競業避止を課す際にどのような利益があるか、すなわち、会社にどのような独自のノウハウや独自の情報、顧客情報があるかなどで判断します。仮に、独自のノウハウとは言えない場合には、無効になるケースが多いです。❷はどのような役職であったか、経営者側に近い立場なのか、平社員であったかなどで判断します。仮に、平社員であれば、競業避止義務を課すこと自体が無効になるケースがあります。❸競業避止義務を課す期間が1年の場合は、競業避止義務が有効になるケースが多く、3年だと無効になるケースも多くなります。2年で有効、無効になるのはケースバイケースです。また、制限される地域は、同一市町村や近隣に限られる場合には、有効になるケースが多く、それより広くなるケースは無効になるケースが多くなります。
❹代償措置とは、競業避止義務を課す代わりに給与を上乗せして支払いしていたか、退職金を上乗せして支払っていたかなどで判断します。
3.まとめ
最近では、某ブランド買取専門の大手会社が退職時に、同業他社に就職することを制限する誓約書を書かせているので競業避止に関する相談件数は多いです。相談及び依頼後、私が退職代行した際には、退職時の競業避止義務に関する誓約書の作成については拒否しています。仮に、誓約したとしても無効になるケースも多くありますので、お困りでしたら、遠慮なく私までご相談ください。力になります。
・関連条文
日本国憲法
第22条第1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。