
弁護士コラム
第58回
『弁護士による退職代行と社宅(社員寮)の退去及び退去時期』について
公開日:2024年12月23日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第58回は『弁護士による退職代行と社宅(社員寮)の退去及び退去時期』について書きたいと思います。

目次
1.借り上げ社宅について
社宅とは、会社所有ではないアパートやマンションを会社が社員の住むために借りたアパートやマンションを言います。借り上げ社宅は、借主が会社となる点以外は普通の賃貸借契約と何ら変わりはありません。会社側が借り上げ社宅を借り上げるメリットとしては、社員に対して働き易い環境を提供できることにあります。
一般的には、借りた社宅は会社の近くにあるので、職場までの通勤時間がほとんどないのはメリットですし、家賃補助も会社がしてくれるので相場よりも安く住むことができます。雇用の継続率も上がります。さらに、会社にも社会保険料支払いの点で節約できるメリットがあります。
2.退去時の費用負担について
社宅の契約主体は、会社になりますので、社宅を契約するにあたっては会社が契約時の入居費用を負担します。しかしながら、退去費用については、退去時に発生するため、退職者と会社との間で清算する必要があります。借り上げ社宅に関する規定や合意書を結んでいるケースでは、退去時の費用は社員が負担しなければなりません。
反対に、退去時の清算に関する社宅に関する規定や合意書がなければ、退去時に社員に退去費用を負担させることはできません。また、仮に、退去時の清算する規定があったとしても退職者が給料控除について、真摯な同意をしない限り給料からその退去費用を控除することは、賃金全額払いの原則に反し違法となります。
・参考条文
労働基準法第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
3.退去時期について
次に、借り上げ社宅の退去時期について解説していきます。借り上げ社宅の退去時期については、社宅の趣旨が社員の福利厚生を図ることにあります。したがって、社員である期間、すなわち、退職までは社宅に住むことができます。言い換えれば、退職時に退去しなければなりません。この時、有給が残っていれば、有給消化をした日を退職日にすれば、社宅退去までの時間がありますので、余裕をもって引越しの準備ができます。
しかしながら、有給がないケースでも、民法第627条1項により、退職の意思を伝えてから14日経過後を退職日にすることで、退去日の日数を14日間確保することができます。社宅に入居している社員の方が退職する場合で、有給がないケースでは、退職代行したその日を退職日とする即日退職ではなく、14日後を退職日とする実質的即日退職をすることをお勧めします。
・参考コラム
第35回『即日退職と退職代行』について
なお、会社によっては、社宅の退去時期に関する規則があります。一般的には、その規則には、退職日から社宅退去を3週間以内とする規定があり、その規定がある場合には、退職日を退去日とするのではなく、退去時期は3週間以内にすれば問題がありません。
4.名義変更の交渉について
少ないながらも依頼者の方から社宅の名義変更の交渉について相談を受けるケースもありますが、社宅の名義を会社から退職者に変更させるためには、契約主体の会社の同意が必要であり、仮に、会社の同意があった場合でも、名義変更料として管理会社に対して家賃の1ヶ月分を支払う必要があります。
5.会社所有の社宅のケースについて
あまり多いケースではありませんが、借り上げ社宅ではなく、雇用された会社が社宅をもっているケースもあります。その際、会社と社員との間には賃貸借契約が成立するので、借地借家法が適用されます。借地借家法が適用される場合されるケースでは、解約するには6ヶ月前に解約申し入れをし(同法27条1項)、しかも正当な事由が必要(同法28条)となります。したがって、会社所有の社宅を社員に貸した際には、社員が退職したとしても社宅から退去させることはできなくなります。
なお、賃貸借契約にあたっては、家賃の相場の7割程度以下の安い価格で社宅を貸していた場合には、借地借家法が適用されないため、会社がもっている物件を貸す場合には、あえて借地借家法が適用されないように低額で貸すケースもあります。一つの例として、公務員が国から宿舎を借りるケースでは、あえて借地借家法を除外するために相場よりかなり低い額で出しているのも退職した際に、すぐに退去してもらうためです。
6.まとめ
今回、借り上げ社宅についてコラムで解説しました。借り上げ社宅の退去時に、社宅の立ち会いを会社から要求されるケースがありますが、社宅の契約主体は会社となりますので、退去時に社員が立ち会いを強制する法律上の根拠はありません。
したがって、私の退職代行時には、借り上げ社宅の退去を拒否する交渉もしていますので、立ち会いについてお困りの方は私までご相談ください。
また、社宅の鍵については、退去時に社宅に置いてくる方もおりますが、契約主体が会社であることからも鍵は退職する社員の方は、追跡記録の付く方法(レターパックなど)で社宅の鍵は必ず会社に送るようにしてください。
お困りでありましたら、遠慮なく私までご相談ください。力になります。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者

弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。