弁護士コラム

第59回

『弁護士による退職代行と常駐型SESの退職と損害賠償』について

公開日:2024年12月25日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。

退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第59回は『弁護士による退職代行と常駐型SESの退職と損害賠償』について書きたいと思います。

目次

1.常駐型SESの現状について

SES(システムエンジニアリングサービス)とはソフトウェアやシステムの開発・保守・運用における委託契約の一種であり、特定の業務に対して技術者の労働を提供する契約です。商流は、A社→B社→C社→D社になっているケースが多く、退職代行サービスのご相談を受ける方は、C社またはD社に雇用されているケースがほとんどです。

さらに、C社やD社は自社の従業員の労働力をB社に提供しているケースがほとんどです。C社、D社の社員は、常駐先の現場に入るにあたっては、B社の社名で仕事をしています。B社の従業員でもないですが、B社の社員であるフリをしているケースもあります。

過去、特定派遣が認められていた場合には、C社、D社は特定派遣で、B社の現場に入っていましたが、現在は特定派遣が廃止され、一般労働派遣のみしか認められなくなった現在では、派遣の許可の要件が出にくいため、C社、D社で派遣の許可をもらっている会社は稀な会社以外は皆無になりました。

現状、C社、D社の社員は、B社から業務指示を受けているケースも多く、偽装委託や偽装請負、偽装派遣になっている現状があります。

仮に、偽装委託、偽装請負、偽装派遣の構造になっていても、常駐型SESは社会を支えるインフラになっていますので、国も見て見ぬフリをしてあえて抜本的な解決をしていません。特定派遣を廃止するなど20年前よりも現状は酷いものになっています。現状の酷さは、働く社員の方の加重労働や環境の悪化になっており、やむを得ず退職代行を依頼される方もとても増えています。

2.常駐型SESの退職の損害賠償請求について

次に、B社とC社やC社とD社は、準委任契約にてSES契約を結んでいます。準委任契約は、このコラムでも何度も登場している契約ですが、解除をしたいと言った段階で、解除ができる契約形態です。

したがって、C社やD社の社員の方が退職したいと言った場合には、B社とC社またはC社とD社の間の準委任契約は、退職日と同日に解除になります。常駐型SESで働いている方からのご相談で1番多いのが、退職した際に『損害賠償請求』されないでしょうか?と内容になります。

会社間の契約は即日解除できる準委任契約になっていますので、退職の際に、同日に会社間の解除になっていますので、雇用されているC社、D社に損害が発生しないようになっています。

したがって、雇用されている会社から退職者に対して、損害賠償されるケースはほとんどありません。また、常駐型SESは、偽装委託、偽装請負、偽装派遣の構造になっていますので、契約形態として、法律上、黒またはグレーになっているケースもありますので、雇用している会社としても契約形態が損害賠償請求しない理由の一つになっています。

なお、会社間の契約が準委任契約になっているかについては、普段の請求方法で判断できます。勤怠表(タイムシート)を根拠として工数で請求している場合には、会社間の契約は準委任契約になっています。

・参考条文

(委任契約の解除)
民法651条第1項

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

3.常駐型SESの退職代行について

常駐型SESの方が退職の依頼にあたっては、退職代行した日から14日経過後が退職日になります。
仮に、14日経過後よりも有給消化した日の方が後になる場合には、有給消化日が退職日になります。

・参考条文

民法第627条第1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

また、有給消化日数がない場合には、会社の同意をもらって退職代行したその日を退職日とする即日退職になるように交渉することも可能となります。

・参考コラム

即日退職と退職代行については、コラム第35回『即日退職と退職代行』について、をご参照ください。

4.まとめ(常駐型SESの傷病手当金請求について)

今回は常駐型SESの退職代行及び退職についてコラムにしました。常駐型SESで働いている方は、加重労働や労働環境の悪化により、適応障害などを発症しているケースもあり、合わせて傷病手当金を申請するケースも多くあります。

傷病手当金申請について詳しくはコラム第3回『退職代行時の傷病手当金請求』をご参照ください。 傷病手当金申請についてお悩みの方は、遠慮なく私までご相談ください。力になります。

・参考コラム

第3回 退職代行時の傷病手当金請求

第35回 即日退職と退職代行

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。