弁護士コラム
第71回
『労働基準監督署への申告及び告訴』について
公開日:2025年1月22日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第71回は『労働基準監督署への申告及び告訴』についてコラムにします。
5分程度で読める内容になっています。このコラムが2025年10回目のコラムになります。
2025年も弁護士法人川越みずほ法律会計をお願いします。
目次
1.未払いの申告のすすめ
最近は、未払い賃金(給料)、未払い残業代、未払い退職金の相談が増えています。その際、裁判に提起するのも一つの方法ですが、裁判提起するには、解決までに時間はかかりますし、印紙代や郵便代もかかるため、その際、所轄の労働基準監督署に「未払い」の「申告」をする方法をおすすめします。労働基準監督署に申告する方法については、ネット上でも情報が少ないことから、わかりやすく説明していきます。
まず、労働基準監督署は、労働基準法その他労働諸法令に対する指導監督することを役割とした行政機関になります。労働基準監督署は、裁判所と違い行政機関であることから、明確な労働基準法違反でなければ、指導監督について行うことはありません。また、指導監督するにあたっては、会社に対して調査することもあります。
例えば、未払い給料、未払い退職金があった場合には、労働基準法第24条賃金全額払いの原則に明確に違反することから、その際には、調査→指導監督の流れになります。
その際、調査→指導監督は、行政上の効力があるものであって、労働基準監督署が行う調査→指導監督には、賃金や退職金を退職者に支払うような民事上の効力がないものの、強い指導監督が行われるため、その過程で、未払い賃金、未払い退職金が支払いされるケースがほとんどです。
2.第23条第1項による申告
また、私の依頼者のほとんどは、退職代行時に、未払いが発生するケースのため、労働基準法第23条第1項に基づく申告を行うことがほとんどですので、同第23条第1項に基づく申告を前提に詳しく解説します。労働基準法第23条は、退職時に、労働者の権利に関する請求は、請求があった時から7日以内に支払いをさせる条文になります。
「申告」の根拠である第23条第1項によれば「使用者」は、労働者の①「退職」の場合において、権利者の②「請求」があつた場合においては、③「七日」以内に④「賃金」を⑤「支払い」しなければならないとなっています。
そこで、私が行う退職代行(①)の際には、受任通知書上で、給料未払い、退職金未払いに対して、7日以内(③)に、給料、退職金(④)を支払う(⑤)ように請求(②)します。①から⑤の要件を満たした書面を出した上で、それでも会社が給料未払いにした場合には、監督署は、退職者からの申告に基づき、調査、指導、是正を行います。
調査、指導、是正の際には、監督署が会社に対して来署依頼をし、応じない場合には、直接、監督官が会社に訪問することもあります。また、申告を行う労働基準監督署は、会社の所轄の労働基準監督署になります。
仮に、所轄の労働基準監督署が遠い場合には、退職者がお住まいの労働基準監督署に申告される方もいらっしゃいますが、申告を受け付けてくれるかどうかは、住所地の労働基準監督署の裁量になりますので、断られることもあります。また、所轄の労働基準監督署には、退職者が直接、足を運ぶ必要がありますので、退職者自身が所轄の労働基準監督署まで行く必要があります。
なお、①から⑤を満たした書面は、必ず追跡記録がある郵送方法によって行えば足り、必ずしも、内容証明郵便の形で行う必要はありません。青色のレターパック(レターパックライト)でも足ります。
労働基準監督署への申告手続き以外にも、未払いについて、告訴する方法もありますが、告訴するにあたっては、数回事情聴取がありますので、その度に、退職者自身が所轄の労働基準監督署に足を運ぶ必要がありますので、必要以上に手間がかかります。
平均で、告訴まで6回程度、足を運ぶことがほとんどだと思います。なお、告訴する際にも、労働基準法第23条第1項に基づくため、流れは先程の①から⑤を満たした書面を会社に送ります。後の流れは、申告の流れと同じです。
3.まとめ
労働基準監督署への申告については、あくまでも、明確に労基基準法違反であることが必須要件のため、労働基準監督署の判断に法的な解釈が発生するケースや民法上の判断が必要になるケースでは、申告を受理することはありません。
例えば、立替経費は、民法上の話になります。有給消化についても、有給消化については、時季変更権、時季指定権の解釈があります。
また、給料が現金支給のケースや現金支給から振込をしてくれないケースでは、原則として、労働基準法が現金支給のため、労働基準監督署は、申告を受理しませんので、注意が必要です。お困りの際には、遠慮なく私までご相談ください。力になります。
・参考条文
労働基準法第23条
第1項
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。