弁護士コラム

第72回

『未払い残業代請求と退職代行のすすめ(1)』について

公開日:2025年1月24日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。

退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。

その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第72回は『未払い残業代請求と退職代行のすすめ(1)』についてコラムにします。

10分程度で読める内容になっています。このコラムが2025年11回目のコラムになります。

2025年も弁護士法人川越みずほ法律会計をお願いします。

目次

1.時間外労働時間の考え方について

最近、退職代行の際に、未払い残業代請求のご相談はとても多いです。コロナ禍の際には、まったく未払い残業代の相談は無くなりましたが、最近では、コロナ前と同じように未払い残業代請求のご相談が増えています。それとともに、長時間労働に伴い、うつ病や適応障害が増えています。長時間労働に対する慰謝料請求についてのコラムについては別の機会で執筆していきます。

未払い残業代請求の論点については、大きく分けて、2つあります。
まず、①時間外労働時間がどのぐらいあるか
次に、②時間外単価の計算根拠について、になります。
①については、今回は、タイムカード等の客観的な記録がいる場合を前提として解説していきます。

①時間外労働時間については、就業前時間外と終業時間外の労働時間が何時間あるかになります。例えば、所定の労働時間が、朝9時から18時の場合には、9時前に出勤した早出残業時間と18時以降の時間外労働時間に分けられます。その際、早出残業時間については、タイムカードなどの出勤記録上、出勤になっていたとしても、実際にどのような業務指示があり、どのような仕事をしていたかなどについて、労働者側が立証する必要があります。

その一方で、18時以降の労働時間がタイムカードなどの出勤記録上、時間外労働となっていた場合には、タイムカードなどの出勤記録に記録された時刻が終業時刻とは異なり、会社側は使用者の指揮命令下に置かれて労働してはいなかった旨の反証をする必要があり、これができないときには、タイムカードに記録された出勤時刻と退勤時刻をもって、労働者の始業時刻と終業時刻であると認定されます。すなわち、会社側で終業時間外については、時間外労働の必要性がなかった旨を主張立証する必要があります。

ここまでをまとめますと、時間外労働時間のうち、早出残業時間は、原則通り、時間外労働について、労働者側が、使用者の指揮命令があったこと、労働の必要性を主張立証しますが、終業時間外については、会社側で、時間外労働の必要性がなかった旨を主張立証する必要があります。

より簡単にまとまると、早出時間は労働者側が主張立証し、終業時間外については、会社側が時間外労働する必要性がなかったことを主張立証するため、労働者の立場からすれば、終業時間外に相当する時間外請求は認められ易い傾向がありますし、早出時間外に相当する時間外請求は認められ難い傾向があります。


未払い残業代を請求する際には、一部でも良いので、事前にタイムカード等の勤怠記録をスマホで撮るなどしておけば会社がタイムカードの提出を拒否したとしても、推認により請求できるケースもあります。お困りの際には、遠慮なく私までご相談ください。

2.時間外単価の計算根拠について

まず、②時間外単価の計算根拠については、所定内賃金が残業代の計算基礎になります。その際、家族手当、通勤手当、別子手当、住宅手当、臨時の賃金は、残業代の計算基礎に含まれませんが、固定残業代については、所定外賃金のため、計算の基礎に含まれません。しかしながら、実務上は、固定残業代の有効性については、争いが多くあります。

例えば、固定残業代については、区分明確性などが要求されるケースも多くあり、時間外として、何時間や45時間などの具体的な時間相当を含むことが分かる形式になっていないとなりません。事前に、雇用契約書(雇用通知書)、就業規則、その他資料をチェックするようにしてください。事前にチェックできなくとも、諦めずに、遠慮なく私までご質問ください。

3.まとめ

①②から一体いくらの未払い残業代が請求できるかは、一般的に、基礎賃金 ÷ 173.8時間 × 1.25 (割増率) で計算します。仮に基本給が25万円であれば、1時間あたりの単価は1,798円(四捨五入)になります。その上で、時間外労働時間が1,000時間であれば、合計 1,798,000円となります。

また、未払い残業代の時効期間の3年をストップさせることや資料開示を求める手段として、内容証明郵便を使います。内容証明郵便については、コラム第64回をご参照ください。

今回は、タイムカード等の出勤記録を前提として解説しましたが、タイムカードではなく、ジョブカン、PCログ、LINEの記録、日記、手帳、メモ、googleマップのタイムライン、メールなど、時間外労働時間を立証する手段は多岐に渡りますので、悩む前に私までご相談ください。今回は訴訟を前提として、コラムを書きましたが、所轄の労働基準監督署へ未払い残業代を申告する方法もあります。

次回以降、未払い残業代の申告方法についてコラムにしたいと思いますが、コラム第71回労働基準監督署への申告について、をご参照頂ければ、概要がわかるようになっています。

・参考コラム

第64回『弁護士による退職代行と内容証明郵便』について

第71回『労働基準監督署への申告及び告訴』について

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。